序章 論理的な文章表現力の育成をめざして

1 はじめに

 高等学校の現場では、小論文入試等の増加によって、論理的な文章を書く力の養成が求められている。現在、大学の推薦入試等の試験科目として八百字から千二百字程度の小論文は、様々な問題形式で出題されており、それらの受験に対する対応策を立てることは、全国の高等学校の現場で重要な課題となっている。私も現在の勤務校で、ずっと小論文の指導にかかわってきた。その指導の現状は、高校3年次による入試直前の個別指導が中心で、短期間である程度の文章を書かせて事前の予備練習を行うことがほとんどであった。
 平成元年度版の学習指導要領では、国語Tの表現の領域で、「作文の指導には1単位程度を配当するものとし、生徒の表現力をできるだけ伸ばすようにすること。」と明記されてある。しかし、週5単位が主流を占める国語Tの内訳は、おおむね現代文2単位・古典3単位の構成であり、1単位程度とされた作文の指導は極めて低調な状況である。現代文2単位の授業時間数では、作文の指導にまとまった時間を確保することが困難であり、準備や評価等の難しさもあって、計画的な文章表現力の育成はできていなかったのが、私の勤務校での実態であった。
 現行の学習指導要領では、国語表現の科目が存在するが、私の勤務校では、まだ国語表現の科目を開設したことがなく今日に至っている。一方、論理的な文章を書ける力や人前で自分の意見を論理的に述べる力は、様々な場面で求められており、そういった表現力を国語の授業の中でどうやって育成するかは、ここ数年の私自身の大きな課題であった。
 本論文は、本校の高校3年生を対象にして、小論文入試を意識した「意見文の取り立て指導」の実践をまとめたものである。1・2年次の段階では、期末考査終了後に八百字程度の小論文を4編ほど書いているだけで、計画的な作文の指導を受けたことがない生徒たちに対して、論理的な文章が書けることを最大の目標にして授業実践を行った。
 授業の対象は、本校3年生私立文系コース3クラスの国語U(3単位)と3年生国際コミュニケーション科1クラスの選択国語(2単位)である。本校の3年次私立文系コースの国語の授業時間数は9単位であり、その内訳は、現代文3単位・国語U6単位(古典3単位・国語表現的展開3単位)である。教科書は「新編国語U・三省堂」を利用しながら、投げ込み教材等も使用して独自の方法で国語表現的な授業展開に取り組んだ。3年生の1学期から2学期中間考査まで(4月から10月まで)に集中して「意見文の取り立て指導」を行い、論理的な文章表現力を伸ばすことができたかどうか、その授業実践の過程と結果を分析・検討したものである。

2 学習指導要領に示された論理的な文章表現力の指導事項との関連について

 まず、中学校・高等学校の平成元年度版学習指導要領において、論理的な文章を書く表現力の指導事項が、どのように示されているか見てみよう。

  〈中学校〉
   (表現)

3年  ア  広い範囲にわたって素材をもとめ、表現しようとすることについて自分の考えを見直したり深めたりすること。
3年  イ  目的や場面に応じて、主題や要旨がはっきり分かるように表現すること。
2年  ウ  自分の考えを的確に表現するために、適切な話題や題材を選び出すこと。
2年  エ  事実と意見、中心の部分と付加的な部分などの関係がはっきり分かるように全体の構成を工夫して表現すること。
3年  エ  意図が相手に伝わるように、根拠を明らかにし、効果的な論理の展開を工夫して表現すること。
2年  カ  表現しようとする内容と文脈にふさわしい語句を選び、文の形を工夫して表現すること。
  〈高等学校〉
   (表現)
    国語T
ア  目的や場に応じて話題や題材を選び、自分の考えをまとめること。
イ  主題や論旨が明確になるように構成を工夫して話したり書いたりすること。
ウ  対象を的確に表す語句を選び、文脈に即して用いること。
エ  事実と意見、説明と描写の区別などに注意し、筋道を立てて話したり書いたりすること。
オ  目的に応じて適切な形式や文体を工夫し、話や文章をよりよく整えること。

    国語表現
ア  適切な話題や題材を取り上げ、それについて情報を収集、整理し、自分の考えを深めて、主題や論旨を明確にすること。
イ  観察、調査などに基づいて、事実、状況などを正確に説明したり記録や報告にまとめたりすること。
ウ  構想に従って材料を整理し、意見、主張などを筋道を立てて話したり書いたりすること。
エ  対象を的確にとらえ表現を工夫して、感想、感動などが生き生きと伝わるように話したり書いたりすること。
オ  相手や目的に応じた形式や文体を整えて、通信、伝達などの文章を書くこと。
カ  優れた表現について主題、要旨、構成、修辞などを吟味し、自分の表現や推敲に役立てること。

 中学校・高等学校の学習指導要領から見てとれる、論理的な文章表現力の指導事項としては、次のような点があげられる。

  1. 書くことの内容を発見し、集めること。(豊かな発想力・取材力)
  2. 書き手の中心的な考えである主題を明確にすること。(主題の明確化)
  3. 主題にふさわしい適切な題材を選択すること。(的確な題材選択)
  4. 主題を明確にするために論理的な構成をとること。(論理的な文章構成・展開)
  5. 生き生きと描写すること。(豊かな表現力・語彙力)

 今回の実践では、これらの指導事項の中で1と4を主な指導の事項として取り組んだ。その理由は、生徒の大多数が与えられたテーマに対して書くことがない、思いつかないという悩みを抱えて書きあぐねている点にある。書くことの内容を発見するにはどうしたらいいのか、その具体的な方法を指導していくことは、切実な課題である。題材の発見でつまずいている生徒たちに、効果的な発想の技術を教え、深く考えることでユニークな意見を発見していく歓びを味わわせたいと考えた。具体的にはブレーン・ストーミングを行ったり、デイベートの立論の際に用いられるブレスト・シートなどを活用して、書くことの内容を発見していく作業を試みた。さらに、発見した題材をどうアウトラインとして並べるかということが解決すれば、ほとんどの生徒が意見文を書き進めていくことができる。大多数の生徒に論理的な文章を書きあげる達成感を味わわせたかった為に、主にこの2つの事項に力を入れて授業に取り組んだ。また「論理的な文章の構成」を教えることは、文章の型やアウトラインを提示することで、一斉指導でも十分に可能であると考えた。今回の授業実践では、「導入・展開・反論・結び」の四段落形式の型を意見文の型として与え、「対立的な構造」を意識させて、予想される反対意見への反論を設定するなどの論理的な文章形式に書き慣れていく試みを繰り返し行った。
 一方、2と3の指導事項の「主題意識の明確化」では、書きあげた作品の主題文に傍線を引かせる指導しかできなかった。発見した題材から、主題を導き、主題にふさわしい題材を逆に取捨選択していく過程を体験させることは、非常に有意義な取り組みであるが、そのような作業を明確に意識できる実践を組み立てることができなかった。
 ポストイットを利用して題材を発見する作業の後で、アウトラインを作る作業に移行すれば、生徒たちが探し出した題材の中から主題を絞り込む過程が、目に見える形で行えるという感触を得たが今回は時間的な制約があって実現できなかった。今後の課題としたい点である。
 5に該当する、豊かな表現力や語彙力の指導には、手が回らなかった。作文の相互評価によってクラスメートや同学年の優秀作品を読むことで、描写力や表現力の違いを意識することはできたかも知れないが、一斉指導の限界などがあり、生徒一人ひとりの豊かな表現力や語彙力を育成できたかは、非常に疑問である。文章のねじれや意味不明瞭な悪文を治療するためにどのような基礎練習を積み上げていくべきかなど、今後の課題を数多く残している。以上のように、今回の取り組みでは、学習指導要領上に見られる指導事項の中で、「題材の発掘・主題の決定・題材の選択・論理的な構成」といった4点に焦点をあてて授業実践を行ったものである。

3 本論文の構成

本論文は、序章・結章のほか、次の七章からなる。

第一章 論理的な文章を書くための「場」の設定についての考察
 1 大西道雄氏の意見文の生成過程モデル
 2 「対立的な構造」を持つ「場」の設定について
第二章 「方言と私」・随想的な文章を書く
 1 授業のねらい
 2 授業の指導過程
 3 授業の実際
   (1) キーワード法(3点法)について
   (2) 発想表について
   (3) 予告文とブレーン・ストーミングについて
   (4) 相互評価について
 4 生徒の実例
 5 まとめ
   (1) 授業アンケートの分析
   (2) 考察
第三章 起承転結・四百字基本形を利用した意見文の取り立て指導
 1 授業のねらい
 2 起承転結・四百字基本形について
 3 授業の指導過程
 4 授業の実際
   (1) 課題文について
   (2) 論題設定と記述前の指導
 5 生徒の実例
 6 まとめ
第四章 新聞投書を利用した意見文の取り立て指導
 1 授業のねらい
 2 授業の指導過程
 3 授業の実際
 4 生徒の実例
 5 まとめ
第五章 本論部を書く枠組み作文の取り組み
 1 授業のねらい
 2 授業の指導過程
 3 授業の実際
   (1) 「高校での服装は、制服にすべきである」の授業例
   (2) 「ペット安楽死は是か非か」の授業例
   (3) 期末考査での取り組み
 4 生徒の実例
 5 まとめ
第六章 課題文型小論文問題を利用した取り組み
 1 授業のねらい
 2 授業の指導過程
 3 授業の実際
   (1) 『「だらしな系ファッション」の是非を考える』の授業例
   (2) 「ビートたけしの自然環境論」の授業例
 4 生徒の実例(その1・その2・その3)
 5 まとめ(その1・その2)
第七章 大分東高校小論文コンクールへの取り組み
 1 小論文コンクール導入のいきさつ
 2 小論文コンクールに向けての事前準備
 3 校内小論文研修会について
 4 小論文コンクールの実施内容について
 5 生徒の実例とコメント
 6 今後の課題

 第一章では、大西道雄氏の意見文の生成過程モデルを紹介し、論理的な文章を書く為の「場」の設定について考察を加えた。今回の実践では、「対立的な構造」を設定することで、書くことの題材を探し、自分の意見や主張を展開させた。どのような「対立的な構造」を設ければ、生徒たちの書くことに対する動機を喚起できるかについて考察したものである。

 第二章では、「方言と私」というテーマで自己の方言や言葉に関する随想的な文章を書き、発想表やブレーン・ストーミングを行うことで、題材集めを体験させた。また、キーワードや予告文の設定によって文章が書きやすくなるかどうかを検証した。できあがった作文については、クラスメートによる相互評価を行い、評価の観点を学ぶことをねらいにもした。

 第三章では、今の若者たちに「囲い込み」傾向があるとする天声人語氏の意見に対して、肯定・否定の「対立的な構造」を設定して意見文を書かせた。その際、起承転結・四百字基本形を利用した意見文の型を提示して、「導入・展開・反論・結び」による論理的な構成で四百字の意見文を書く試みを行った。

 第四章では、新聞投書を素材にして、新聞への投稿を意識した「場」の設定を行った。「導入・展開・反論・結び」による意見文の型を提示し、それに沿って「対立的な構造」を意識した意見文を自分たちの身近な話題で書かせてみた。

 第五章では、序論・結論をあらかじめ与えたワークシートを作成し、本論部を書かせる取り組みを行った。論題としては、「制服は是か非か」「ペット安楽死は是か非か」で賛成論・反対論の両論を書く試みを行った。この授業のまとめとして「ペット安楽死は是か非か」・「高校生に携帯電話は必要か」・「手紙VS電話」といった3つの「対立的な構造」から一つを選択させて、八百字の意見文を書く試みを行った。

 第六章では、大学入試で実際に出題された小論文問題から、生徒の興味と関心を引きそうな2つの論題を探して、反論と根拠を書かせることを意識した取り組みを行った。論題は、「だらしな系ファッション」の是非をめぐる新聞投書の意見に対して反論と自己の立場の根拠を論述させる内容と、ビートたけしのやや暴論めいた自然環境論を読んで、人と自然とのかかわりについて自己の見解を述べる内容である。後者の授業での取り組みでは、共感か批判かという「対立的な構造」を意識させて、題材探しを行わせた。その際、ポストイットを活用することで、「対立的な構造」が視覚化できる作業を行った。

 第七章では、私の勤務校における小論文コンクールへの取り組みをまとめた。論理的な文章を書く力を養成することは、小論文入試への対応だけではなく、自ら問題を発見し、解決していく能力を高めていくことにつながる。知識偏重型の教育から、思考力重視の教育への転換を迫られている今、校内をあげて生徒たちの考える力を伸ばす具体的な方法として、小論文コンクールの導入を決定した。今後、導入される総合的な学習の時間への展開を見通して、一学期を情報教育とテーマ付けしたことにより、「情報化社会・情報化時代」という統一テーマで論題を設定した。初めて本校で実施した小論文コンクールの実施状況とその課題をまとめたものである。

 おしまいに、結章では、「対立的な構造」という「場」を設定した意見文の指導を振り返って、その試み全体を総括するとともに、これから取り組むべき課題について考察した。また、意見文の取り立て指導といった授業全体をふりかえって、生徒たちにアンケート調査を実施しており、その結果を集約した。生徒たちの声をまとめることで、授業の効果や問題点等を考察している。以上の7章で本論文は構成されている。